使途不明金(1)

相続事件では、一部の相続人により、相続発生の前後で相続財産となるはずの預貯金が既に引き出されていてトラブルとなるケースがよくあります。いわゆる使途不明金の問題です。

まず、預貯金の取引履歴をどう把握するかですが、通帳等(最近ではweb上の通帳もあります)が確認できれば容易ですが、通帳等が確認できない場合は、金融機関に問い合わせることになります。判例(最判H21.1.22)によれば、相続人単独で金融機関に取引履歴の開示請求を行うことができ、通常は、過去10年間の履歴が開示されます(ただ、金融機関によっては応じてくれないところもあったり、手数料等の条件も違ったりするようです)。

そして、頻回・多額の不審な引出・振込が認められた場合、他の相続人とすれば、当然、使途不明金を相続財産に含めて遺産分割協議をするべきだと考えるでしょう。

さて、遺産分割の対象となる財産は、①相続開始時(被相続人の死亡時)に存在し、かつ、②遺産分割時にも存在する財産とされています。そうすると、使途不明金が問題となるケースは、被相続人が亡くなる直前に引出等されているか、被相続人が亡くなった直後(遺産分割の協議がなされる前)に引出等されているかですから、前者の場合は①により、後者の場合は②により、本来的には遺産分割の対象とならないことになってしまいます。

もっとも、家庭裁判所の遺産分割調停では、当事者の要請に応じ、使途不明金を遺産分割に含めて協議する機会が設けられることが通常です。ただ、数回協議を重ねても、使途不明金について合意がまとまらない場合は、原則に戻って、調停の対象から外されてしまいますので、別途対応が必要となります。なお、平成30年の相続法改正により、被相続人が亡くなった以降に預貯金の引出等されているケースにおいては、当該相続人以外の相続人全てが同意すれば、使途不明金を遺産分割の対象とすることができるようになりました(令和元年7月1日以降に開始した相続に限ります)。