前回のコラムで、遺産分割審判において、不動産が共有分割とされた場合、その後も共有関係の解消に向けた協議がまとまらなければ、最終的には、共有物分割の訴えを提起しなければならないという話をしました。
まず、手続面として、共有物分割の訴えは共有者の全員を当事者(原告又は被告)としなければなりません。
そして、分割の方法ですが、近時の民法改正により、従来認められていた現物分割、代償分割(部分的・全面的な価格賠償)、競売分割の3つの方法が明文化されました。競売分割については、現物分割又は代償分割によると不適切である場合に採用されることになっています。
競売分割は、共有不動産を競売にかけ、諸費用を引いた競売代金を共有持分に応じて共有者間に分配することを認めるものです。なお、判決が出て自動的に競売されるものではありませんので、判決確定後、別途競売申立の手続をとる必要があります。
また、細かい点ですが、事例によっては、共有物分割の訴えによっても一部共有関係が残ることもありえます(例えば、土地の共有物分割のケースで、一部の者にのみ持分の限度で分割取得させ、残りの土地の部分は他の共有者の共有関係を残すなど)。
さて、当該共有不動産を利用している共有者がおり、他の共有者は共有不動産の利用自体には関心のない場合(共有となっている土地上に建物を単独所有している共有者がいる場合などが典型例でしょう)、共有不動産を利用している共有者が共有持分を取得し、他の共有者は持分に応じた代償金を得る(全面的価格賠償)のが座りのよい解決といえます。
全面的価格賠償について、判例(最判H8.10/31)は「当該共有物の性質及び形状…分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するとき」に許されるとしていました。この基準は改正法下においても妥当するものと考えられます。
ここで、上記のような典型例で、共有不動産を利用している共有者が共有物分割の訴えを提起し、共有不動産を単独所有する形での全面的価格賠償を希望している場合、他の共有者もその分割方法自体は争わないでしょうから、代償金の額(共有持分の評価)に争いがあっても、代償金の支払能力に問題がなければ、判例の基準に沿って、最終的には、裁判所が認定する金額で全面的価格賠償を認める判決が出されるケースが多いと思われます。
もっとも、上記判例はあくまで共有不動産の単独所有を希望する者について適用される基準と考えられる点に注意が必要です。
例えば、共有不動産を利用していない共有者が共有物分割の訴えを提起し、共有不動産を利用している共有者が単独取得する形での全面的価格賠償を求めるケースで考えてみます。このケースで、共有不動産を利用している共有者が特定の代償金(共有持分の評価)を前提とした全面的価格賠償しか受け入れない意向であるものの、当該金額が適正な評価額から乖離している場合はどうでしょうか。このような場合、仮に、共有不動産を利用している共有者に適正な評価額に相応する支払能力があったとしても、全面的価格賠償が認められない可能性がでてきます。判決で適正な評価額を前提とする全面的価格賠償を認めると、単独所有を希望していない者に単独所有を強いることになり、財産権保障(憲法29条)の観点から適切ではないと考えられるためです。